【ダイヤモンド・オンライン】 なぜ1%にも満たない富裕層が世界を支配するのか グローバリゼーションによる格差拡大を止めるには スーザン・ジョージ氏インタビュー

「お金が足りないわけではありません。世界にはお金があふれています。ただし今お金は、一般市民の福祉に貢献しないで、この不公平な金融システムを支え続けるのに使われ続けている、というだけです。人に投資せず、公共サービスにも投資せず、何もかも私有化すると、雇用は悪化します。自動的にそうなるのです。

 さらなる平等を実現するには、みんなを働かせる、しかも、まともな給料で働かせることです。緊縮政策ではうまくいきません。中にはみんなが身分不相応の生活をしているからこうなったと言う人がいますが、それはナンセンスです。あくまでも政治と経済が悪いのです。

――将来をどのように見ますか? 楽観的ですか、悲観的ですか?

 どんな正しいことでも、言うだけでは起こりません。みんなが一緒になって、事を起こさないと起きないのです。連携こそが前進できる道です。いいアイデア、いい提案があり、なすべきことがわかっていても、お互いに連携しないと前進しません。ですから私は楽観主義でもなく、悲観主義でもありません。でも希望があると言えることは確かです。」(スーザン・ジョージ氏)


【ダイヤモンド・オンライン】

なぜ1%にも満たない富裕層が世界を支配するのか
グローバリゼーションによる格差拡大を止めるには
――トランスナショナル研究所フェロー
スーザン・ジョージ氏インタビュー

http://diamond.jp/articles/-/16095


グローバリゼーションは経済的な恩恵をもたらす一方で、国家間、社会階層間などさまざまなレベルで格差の拡大という弊害を生んでいるともいわれる。我々は今後、もはやその流れを押しとどめることは不可能とさえいわれるグローバリゼーションと、どう向き合っていけばいいのか。反グローバリゼーションの論客として知られ、昨年末に著書『これは誰の危機か、未来は誰のものか――なぜ1%にも満たない富裕層が世界を支配するのか』が日本でも発売されたスーザン・ジョージ氏に聞いた。(聞き手/ジャーナリスト 大野和基)


スーザン・ジョージ
(Susan George)

1934年アメリカ生まれ、パリ在住の政治経済学者、社会運動家。現在は民間シンクタンクトランスナショナル研究所フェロー。76年刊行の『なぜ世界の半分が飢えるのか―食糧危機の構造』(朝日選書)が世界的ベストセラーとなり、以後、新自由主義的グローバリゼーション批判の急先鋒として知られる。近著は『これは誰の危機か、未来は誰のものか―なぜ1%にも満たない富裕層が世界を支配するのか』(岩波書店)。


グローバリゼーションはプラスかマイナスか

――グローバリゼーションは恩恵とともに、格差の拡大のようなマイナス面ももたらしたが、全体的に見てマイナス面よりもプラス面を多くもたらしたと思いますか。

 まず最初に、私は「グローバリゼーション」という言葉を単独では使いません。修飾語がないと、あまり意味がないと思うからです。この30年間、我々が経験してきたのは、「新自由主義のグローバリゼーション」であって、それは格差を拡大することしかしなかったと思います。

 さらに、グローバリゼーションというのは誤解を招く言葉です。みんなが一つの幸せな家族であり、お互いの手を取り合って、約束の地に向かって行進しているような印象を与えるからです。それはまったく真実ではありません。

 いままで何度も指摘してきましたが、グローバリゼーションというのはベストな人、ベストな国、さらにそういう国のベストな部分だけを見て言っており、残りの莫大な数の人や地域を除外しています。ですから全体的に見れば、グローバリゼーションは失敗しています。

 例えば、中国は貧困レベルを減少させるのに大きな成功を収めましたが、インドはそれほどではありません。彼らは確かに自由貿易から恩恵を得ましたが、世界中の貧困という観点からは、グローバリゼーションから得たものはほとんどないのです。

――まったく同感です。

 ある特定の社会の、特定の部分は間違いなく恩恵を得ました。しかし、能力がないと恩恵を受けることはできません。また、「移動可能」という性質がないと恩恵を受けることはできません。あまりスキルがなかったり、場所が固定されていたりする場合は、グローバリゼーションから恩恵を得ることはできないのです。

恩恵を受けたのは
ごく一部の「ダボス階級」のみ

――つまり、いま我々が直面している危機を起こしたのは、多国籍企業の、新自由主義のエリートということでしょうか。

 そうです。私はそれを「ダボス階級」と呼んでいますが、グローバリゼーションはそういう非常に少数の階級の人にだけ完全な自由を与え、彼らはできるだけ速く大儲けをするべく規制を緩和し、国営のものを民営化するためにその自由を利用してきたのです。

 しかもこのシステムは長期的なフォーカスを持っていません。長持ちする、包括的なシステムとしては考えられていないのです。市場は万能であり、自己規制が働くというのはまったくのナンセンス。民営化すると何でもうまくいくというのは、完全に間違っています。

 私が言う真のグローバリゼーションは、一種の普遍的な、ユニバーサルな福祉国家に向かってさらに進むことであり、いま起きている「新自由主義のグローバリゼーション」ではありません。グローバリゼーションの成功とは、ユニバーサルな福祉国家の実現のことです。

――それは日本にも当てはまるでしょうか。福島原発事故で露わになったように、会社が儲けたときは利益は会社が獲得し、このレベルの大事故が起きると国民がその損失の負担を負う。こういうシステムは筋が通らないと思いますが、どうでしょうか。

 あなたの言うとおりです。だから我々はいま、モラルの危機にあるのです。罪を犯した人が罰せられず、この危機を引き起こしたことにまったく関係のない、罪のない人が一番苦しんでいます。罪のない人が罰せられ、罪を犯した人が報われているのです。

リーマンショックの)2008年以前と比べると、「ダボス階級」ははるかに権力を持ち、裕福になっています。ここまで彼らが成功することは、私も予想しなかったと言わざるを得ません。まさか可能だとは思わなかったのです。これだけ周囲にたくさんの破綻が存在するのを知りながら、そうした少数の人たちが平気でいるのを見て、一体誰にアドバイスを求めたらいいのでしょうか。

 メディアも深くかかわっています。誰をテレビに出して、<我々は何をすべきか>と言えるでしょうか。彼らこそが、この危機を起こした張本人です。信用できません。

 グラス・スティーガル法(商業銀行業務と投資銀行業務の分離)の再制定もできなかったし、ドッド・フランク法(広範な金融取引の規制法)はまだ適用もされていません。そもそも非常に弱い法律です。驚くべきことではないと思いますが。

現在のシステムは
「持続可能」か?

――いま我々がいるシステムは持続可能なものだと思いますか。

 ほとんどの人にとっては「ノー」です。ウォール街占拠運動(OWS)はシステムを正そうとしたと思います。彼らは1%の富裕層と、それ以外の99%の層をはっきり区別しました。実際の超富裕層は1%よりもっと小さいのですが、今のシステムは、そのほんのわずかな少数派のためだけに機能しています。

――つまり長期的な観点に立てば、持続可能ではないということでしょうか。

 このままいくとbrick wall(れんがの壁)にぶつかり、万策尽きてしまうでしょう。国家債務危機はまだ終わっていません。また回復に向かっているとも思えません。ヨーロッパは破綻する可能性があります。私はいまパリに住んでいますから、ヨーロッパが気がかりです。この危機についてドイツや他の国が、何も真剣にやろうとしないのが心配です。

 ほとんどの人は未来が自分たちに開かれていない、と思っています。60年代や70年代には若者もすぐに仕事が見つかり、楽観主義と希望がありましたが、今は当時と比べると、本当に対称的な時代です。かつては、子どもたちの時代は自分たちの時代よりもいい時代になるだろうと思っていましたが、今やアメリカでそう考える人はほとんどいません。

――OWS運動は2、3年前に起きてもおかしくなかったと思いますが。

 とりあえず起こったことで、とても嬉しく思っています。どうやってアメリカ人はこの危機に反応するのだろうと、ずっと思っていました。私は、アメリカでは起きないと思っていましたから、遅くとも、起きないよりは起きた方がいいです。

日本も貧富の差が拡大
このプロセスから逃れる術は

――日本はかつて比較的平等な社会でした。ところが貧富の差がますます拡大していく社会に変化しつつあります。世界中で起きている現象が日本でも見られます。日本は、昔の日本社会のいい面を忘れたのでしょうか。あるいは新自由主義のグローバリゼーションのプロセスから逃れることはできないのでしょうか。

 答えるのが非常に難しい問題です。今日は私のJapan Dayで、日本人の生徒と1時間半話しました。日本は、昔は不平等率が約5対1でしたので、かなり平等な国でした。私が近著で引用したリチャード・ウィルキンソンとケイト・ピケットの不平等についてのチャートを見ればわかりますが、日本はまだグラフではかなりよい位置にあります。裕福な国の中では、もっとも不平等ではない国の一つです。

 日本の債務は確かGDPの220%という莫大なものです。でもすべてのことが今までと同じように動いています。あれだけ高齢者が多いのに、うまくやっていると思います。もちろん福島原発事故や震災は正視に耐えないものでした。東京電力の否定的な態度を見ているだけも非常に苦痛でした。

――日本は相対貧困率が欧米に比べて非常に高いです。自殺も毎年3万人を超えています。そういう意味ではあまりいい社会ではないと思います。ところでOWS運動に象徴される、富の再分配の話をしたいと思いますが、危機を軽減する具体策はあるでしょうか。

格差拡大を食い止める
富の再配分の実現方法は

 まず最初にすべきことは、金融システムをコントロールすることです。公的資金を注入された銀行は全部、あるいは部分的に国営化すべきです。そして中小企業に融資すべきです。銀行は今、連銀や中央銀行から莫大なお金をもらっています。でも中小企業には貸しません。金庫にお金を置いているだけです。

 2、3週間前、フランスで同じ会議に出ていた中小企業の社長と話しました。彼はスポーツ用品会社の社長ですが、「太陽がさんさんと照っているとき、自分の銀行は傘になってくれましたが、雨が降ると帽子も傘も何も貸してくれません。銀行は私を捨てました」と言っていました。銀行は何も助けてくれません。銀行こそ、何をすべきか教わるべきです。

 2つ目は多くの法律を通過させて、1920年代の昔に戻すことです。ルーズベルト時代の法律を多く通過させ、デリバティブは違法とします。そしてより平等な社会を目指すには、もっと仕事を創り出さないといけません。

 今、雇用を増やす唯一の道は、経済を全面的に「グリーン経済」にすることです。それは、医療や教育はじめ、生活環境を価値の中心に置き、変革につながるすべてのものに投資することを意味します。人間は自然の法則を尊重せずには存在できませんから、環境をもっとも重要な価値にするのです。

 さまざまな報告書にも書かれていますが、そうすることで、スキルを要しないものから博士号が必要なものまで、どのレベルの仕事も創出されます。私はこの変革を「グリーン・ニューディール」と呼びますが、社会問題も環境問題も含めて、今抱えている多くの問題を解決してくれるでしょう。

 今、失業中の人に対しては、経済的な援助も必要です。それには多くの方法がありますが、日本はかなりのことをしてきました。たとえば優れた公立学校の教育システムや医療制度です。フランスやアメリカや他の国では、深刻なまでに予算が削減されています。教育の質も下がっています。医療の質も下がっています。人はいままでよりも長時間労働を強いられています。銀行には、これを助けることができます。

 最新のレポートによると、連銀は銀行に16兆ドル提供したといいます。アメリカの銀行だけではありません。日本、ドイツ、フランス、イギリスの銀行も含まれます。もちろん、銀行にすべてのことをする資金がないことはわかっていますが、あまりにも一般市民をないがしろにしています。

 お金が足りないわけではありません。世界にはお金があふれています。ただし今お金は、一般市民の福祉に貢献しないで、この不公平な金融システムを支え続けるのに使われ続けている、というだけです。人に投資せず、公共サービスにも投資せず、何もかも私有化すると、雇用は悪化します。自動的にそうなるのです。

 さらなる平等を実現するには、みんなを働かせる、しかも、まともな給料で働かせることです。緊縮政策ではうまくいきません。中にはみんなが身分不相応の生活をしているからこうなったと言う人がいますが、それはナンセンスです。あくまでも政治と経済が悪いのです。

――将来をどのように見ますか? 楽観的ですか、悲観的ですか?

 どんな正しいことでも、言うだけでは起こりません。みんなが一緒になって、事を起こさないと起きないのです。連携こそが前進できる道です。いいアイデア、いい提案があり、なすべきことがわかっていても、お互いに連携しないと前進しません。ですから私は楽観主義でもなく、悲観主義でもありません。でも希望があると言えることは確かです。